Reversi-Love#86~意味のある解~

 
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2人は本堂に通され、出されたお茶をすすっていた。

「去年まで知らなかったんだよ。毎年春奈チャンが掃除に来ているって。」

「私が何かできることと言ったら、これくらいなので。」

春奈は笑いながら答える。

「てっきり黒羽センセの親戚とか、元依頼者の誰かかと思ってた。そんな話を去年住職にしたらさ、違う。ここ十年ぐらい、毎年女の子が前の日に掃除に来るんだって聞いて。センセも隅に置けないなと思っていたんだ。」

そう言ってニカッと白い歯を見せて笑う。

「今年の春頃かな。透から春奈チャンがあのときの女の子だって聞いて、ピンと来たんだ。それで今日確かめに…いや、伝えに来たってわけだ。」

「伝え、に?」

春奈は田代の真意がわからず、首をひねる。

「ああ。黒羽センセだったら、こういうとおもってな。"もう、いいから。充分だから、もうここに来るのはやめなさい。"って。」

春奈は驚いて田代を見る。

「春奈チャン、キミはもう解放されるべきだよ。あの雨の日の悪夢から。センセはキミが過去に縛られることなんて望んじゃいない。」

春奈は目を見開いて、田代を見つめている。目が離せないでいる。

「"毎年ありがとう。キミが立派に成長した姿を見られて嬉しいよ。私は誇らしい気持ちでいっぱいだ。幸せになりなさい。いっぱい、いっぱい、人を愛して、いっぱい、いっぱい、人から愛されなさい。"。センセは絶対そう言ってる。・・・センセの結審後のキメ台詞なんだよ。これ。照れるだろ?」

笑う田代とは逆に、春奈の目から、ボロボロと大粒の涙が溢れた。

「あ…?。」

春奈は自分の涙に驚く。

手のひらを上に向け、溢れ落ちる涙を受け止めようとする。

田代が春奈の頭をくしゃっと撫でる。

「辛かったな。もう、自分を許してやれ。」

春奈の顔がくしゃくしゃになり、田代の胸に飛び込む。

「よしよし。」

田代は春奈の頭を何度も撫でる。

そのまましばらく春奈は田代の胸を借りて泣き続けていた。






しばらくして、春奈が落ち着いた頃、

「ぶっ。」

田代が春奈の顔を見て吹き出す。

「春奈チャン。ぷぷっ。言っちゃ悪いが、ブサイクだ。」

泣きすぎて目が腫れ上がり、鼻の頭が赤くなって化粧もすっかり剥がれた春奈の顔を見て、田代は笑いを噛み殺そうと必死で口を閉じようとしているが、もごもごとその口は動いている。

「かなーり、ひどいです。」

笑いが止まらない田代を、春奈は恨めしそうな顔で見る。腫れて開かない目で睨むものだから、田代はさらに腹を抱えて笑っている。

「顔を洗ってきな。車で送っていくよ。」

春奈が礼を言おうとしたところ、田代が被せるように言う。

「その顔じゃ、バスも電車も乗れないしな」

「もうっ」

春奈は田代の腕をポンっと叩いて立ち上がった。

そして襖まで歩くと、田代にお辞儀をした。

田代が少し照れた顔をして、手を少しだけ挙げた。

春奈は襖を開け、廊下を歩きながら考える。

---そうやって私が気をつかわないように茶化すんですね。本当にシロチョーはいい人。透さんが惚れ込んでいるのもすごくわかる。これが本来のシロチョーなんだ。

春奈は微笑んだ後、すっと真顔に戻る。

---それなのに、なぜ?

田代が特別病棟の裏組織に関わっているとはにわかに信じ難い。

---祐介先生も信じたいって言っていた。何か理由があるに違いない。それを帰り道で探れたら…。

春奈はそんなことを考えながら、長い廊下を歩いていた。



本堂にひとり残された田代は、ポツリとつぶやいた。

「幸せになりなさい、か。」

---その幸せを危うく奪うところだったのは、自分のせいだというのに。黒羽センセの言葉を借りていたとは言え、俺が言う資格はないな。

この男にしては珍しく、ふぅっとため息をついた。

「何か、悩まれているようじゃな」

住職が本堂に入ってきた。

「まあ、生きてますからね。イロイロと悩みはつきませんよ。」

田代が自嘲めいた笑いを浮かべ、答える。

それを受け、住職はニヤッと笑う。

「それは真理じゃな。生きているが故に苦しみ、生きているが故に悩む。せいぜい悩みなさい。悩み抜いて出した答えにこそ、意味がある。どのような解であっても、な。かっかっ」

「住職にかかったら、俺もまだまだ小僧だな。叶わない。」

「小僧も小僧じゃっ。ハナタレ小僧じゃっ。」

2人は声をあげて笑った。

その声は部屋の外にまで響いていた。


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